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  • 物理探査のアレコレ 屈折法弾性波探査 その3

    走時曲線について①

    記録波形の初動を読み取れたら、その読取値でいよいよ走時曲線を作成します。

    ここからが、弾性波探査のハギトリ法解析を進めていく第一歩です。

    これまで何度も言葉として登場している走時曲線ですが、あまり馴染みがないと思います。

    走時曲線とは、起振ごとの初動読取値を、横軸を距離(測点)、縦軸を時間(初動読取値)としてプロットしたグラフになります。

    上図は、7ヶの地震計を5m間隔で設置し、0m地点で起振した際の初動読み取りと、その読取値を走時曲線にした模式図です。

    初動読取と走時曲線の相関が理解しやすいでしょうか。


    さて、これで何が分かるのか?そもそもなぜ走時曲線を作成するのか?というと、弾性波探査の屈折法解析は多くの計算式を用いた難解なものであるため、それを図式解法で単純化し視覚的に分かりやすくするためです。


    地盤の硬軟は、地盤を伝わる弾性波の速度で表すので、速度値を求めるのが走時曲線の第一の目的です。

    速度を求めるには「距離÷時間=速度」の計算をしなくてはなりませんが、横軸=距離、縦軸=時間のグラフの傾きは速度になることから、図上の傾きに定規を当てるだけで速度を求めることができます。

    上図を例に用いると、起振点0mから地震計P4までは同じ角度の傾きです。

    この傾きに定規をあてると、縦横1マスずつ 1:1の角度であり、速度は1(km/s)となります。

    計算では、距離20mでかかった時間は20msec。20m÷20msec=1km/s と、求まります。

    さて、P4から先は傾きが変わっています。波が、表層とは速度値の異なる地層を伝わっているためです。

    このP4が、表層を伝播する直接波と、下部の硬い層からの屈折波とが同着する地点です。

    P1~P4は直接波が先着、P4~P7は屈折波が先着しているということです。

    では先程と同様に、傾きに定規をあてると横2マス・縦1マス 2:1の角度であり、速度は2(km/s)となります。

    計算では、P4(20m)からP7(35m)まで距離15mで、かかった時間は7.5msec。15m÷7.5msec=2km/s と、求まります。

    各速度値を上図にあてはめると、第1層はVp=1km/s、第2層はVp=2km/sであると解析されました。

    (厳密に言えば、まだこの段階では真の速度値ではありません)

    今回は分かりやすくするため受振点・起振数はごく少数で、地盤モデルも単純な水平2層構造ですが、実際には受振点は数十~数百に及び、起振点も多くなります。地形の変化や地層の数・形状ももっと複雑です。

    これらを全て計算すると膨大で難解な作業になりますが、図式解法なら迅速かつ簡便に速度を求めることができます。

    ここまでで速度値が求まりましたが、さらに速度層の数、各速度層の速度値、層厚、形状まで、走時曲線の図上で解析していきます。

    走時曲線は、屈折法弾性波探査・ハギトリ法解析の要といえるのです。

  • 物理探査のアレコレ 屈折法弾性波探査 その2

    波形の見方と初動の読取

    弾性波探査の波形記録

    上図は、屈折法弾性波探査で観測した波形記録です。

    (地震計を5m間隔で24ヶ並べた115mの展開・115m付近で含水爆薬100gによる起振)

    それぞれの波線は、等間隔で設置された地震計による記録ですので、縦軸は距離(m)となります。

    横軸は時間(msec:ミリ秒 1/1000秒)になります。

    それぞれの波形を見ると、直線だった波線が急にへこんでいますね。

    この反応が、前項で述べた「初動」です。

    カケヤ打撃や発破によって起振された弾性波が、屈折して地表に戻り、地表の地震計が反応したことをあらわしています。

    起振に近い地震計の初動は短時間であり、距離が離れるに従って初動の到達時間が長くなるのがわかります。

    初動の読取とは、弾性波が初めて到達した時間を読むということです。

    初動の読取

    上図は、初動を読み取ったものです。右の表には読取値(初動到達時間)が示されています。

    この読み取った時間をグラフにしたものが「走時曲線」です。(走時曲線について詳しくは次項)

    走時曲線の出来が解析結果の優劣を左右しますので、走時曲線の出来=初動の読取精度であるともいえます。

    この記録で言えば、どの波形も概ね、波線がへこむキワを読み取れており、読取精度としては合格点でしょう。

    極端に言うと、このへこみがシャープであればあるほど読取精度は上がるワケです。

    ならばもっと強い力で起振して波形の振幅を大きくしたら精度が上がるじゃないか!

    ということですが、そのために発破の薬量やカケヤ打撃回数を必要以上に増やすと、安全性や作業性の著しい低下を招き、

    現実的ではありません。

    最大受振距離100mの場合、起振源が爆薬なら100g、カケヤ打撃なら5~10回のスタッキング(重合)が目安です。

    では、振幅を大きくする以外で読取精度を向上させるためには?

    それは「ノイズ」を取り込まないことです。

    弾性波探査におけるノイズとは、こちらの起振以外の全ての振動であり、風に揺れる木々や沢の水流、自動車、船、飛行機、通行人、野生動物、送電線の電波、地震計の不備・・・と、挙げればキリがありません。

    ノイズと初動

    例えば上図の記録の11ch・50mの波形と、12ch・55mの波形を比較してみると、11chは波形のへこみが読み取りやすいですが

    12chの波形ははっきりしません。

    これは、12chの方にはノイズが乗り、初動部分の波形を乱しているからで、ノイズが原因で読取精度が低下したといえます。

    このようなノイズによる読取精度低下に対しては、前後の波形がはっきりしていることや、走時曲線の幾何学的特徴から、

    読取値をある程度補完することができます。

    従って、記録の取り方や精度の判断は、現場の状況によって異なってきます。

    発破の薬量はもっと増やしたほうがいいのか?逆に減らしても効くのか?

    待っていればノイズは収まるのか?

    地震計はしっかり設置されているか?

    地質による効きの違いは?シラス台地は効きが悪い。露岩が多い箇所は波動が減衰しやすい。軟弱地盤だと低周波が卓越する・・・

    などなど

    測定者は、このようなことを考慮しながら、必要十分な精度で波形を取ることを心がけているのです。

  • 物理探査のアレコレ 屈折法弾性波探査 その1

    屈折法弾性波探査とは?

    屈折法弾性波探査は、当社が最も得意とする探査手法の一つです。

    日本で弾性波探査が実施された歴史は、1931年(昭和6年)のダム調査が始まりと言われています。

    明治当初から始まった日本の近代土木技術が黎明期から成長期に差し掛かり、トンネル掘削のシールド工法やアーチダムが国内で採用され始めた時代です。

    その後、太平洋戦争を経て、戦後の復興期にあたる1948年に、社団法人・物理探査学会の前身である物理探鉱技術協会が発足し、弾性波探査を含む物理探査はますます土木工事に適用されるようになり、今日に至っています。

    実に80年を超える歴史がある弾性波探査は、数ある物理探査の中では古典的といえるかもしれませんが、弾性波の性質を非常に上手く利用した探査原理や解析手法は、現在でもトンネルやダム工事等の土木工事から、のり面補強や地すべりの復旧等の災害対策まで幅広く利用されています。

    観音寺トンネル 滋賀県長浜市
    青土ダム 滋賀県甲賀市

    このような屈折法弾性波探査ですが、これをイチから理解しようとすると、とても大変です。

    屈折法弾性波探査の解説では、まず屈折波とは何か?その性質は?スネルの法則は~ホイヘンスの原理は~といった始まりになりますが、いきなり物理の講義みたいでとっつきにくい!

    ですので、できるだけ専門用語を使わずに解説しようと思います。

    屈折波ってどんな波?

    中学や高校の物理で習ったハズですね・・・(汗)

    教科書的には、「異なる2つの媒質の境界面に波が入射するとき、屈折して進行する波」のことです。

    初歩的な実験で、光が空気中から水の入ったグラスを通ると、光が折れ曲がる現象が見られます。(光の屈折)

    「空気中」と「水中」が、異なる2つの媒質ということです。

    これを、単純な地盤での屈折法弾性波探査に当てはめて言い換えると、

    「地面をカケヤで叩いて発生した波(弾性波)が表層の柔らかい土砂を進み、下の硬い岩盤との境界で屈折し、また地表に戻ってきた波」

    と言えます。

    この屈折波を、地上の直線状に等間隔で設置した地震計で観測します。

    下の図で屈折法弾性波探査における屈折波のイメージをあらわしておきます。

    屈折波の伝播経路

    実際には、この図中には反射波や屈折角の異なる屈折波やS波・表面波など様々な波が発生していますが、全て省略しています。

    今は、屈折法弾性波探査で利用する屈折波(それと直接波)にだけ注目しておいてください。

    起振により発生した屈折波または直接波が、各受振器に最も早く到着する波を初動と呼び、この初動が明瞭に確認できる記録を取ることが、探査結果の精度を左右するポイントです。

    基本的に、軟弱な土砂の層は弾性波の伝わりが遅く、硬質な岩盤の層は速く伝わります。

    なので、起振に近い受振器には表層の緩い層をノロノロ伝わる直接波の方が、深部の硬い層を速く伝わる屈折波よりも、早く到達するのですが、距離が離れるに従って、遠回りでも深部を通る屈折波の方が早く到達するようになります。

    この弾性波の伝播の仕方と初動の関係は、よく電車に例えられます。

    🚃直接波は鈍行電車(最寄駅からすぐ乗れる)

    🚄下部の少し硬い層を伝わる屈折波は特急(乗れる駅までちょっと遠い)

    🚅さらに深部のより硬い層を伝わる屈折波は新幹線(隣の市の新幹線駅まで行かないと)

    🚈もっと深いガチガチの岩盤を伝わる屈折波はリニアモーターカー(隣県のリニア駅まで・・・)という具合。

    近場に行くなら鈍行電車が早いですが、行き先が遠方になるにつれて、乗り場まで多少遠くても特急や新幹線の方が早く着きますよね。

    弾性波探査において、弾性波の初動というのはこんなイメージであり、一口に波形といっても様々な地層を通ってきているというわけです。

    次回は、屈折法弾性波探査の実際の記録を見ながら解説していきます。